
温泉小話第十三話 奥の細道
松尾芭蕉といえば俳句ですが、なかでも”奥の細道”は特に有名です。奥の細道では、1689年3月27日に江戸の自宅を旅立ち、東北道に沿って仙台、平泉を経て、東北地方を横断、日本海側に出て、酒田から金沢を経て近畿地方に達し、最終的に伊勢の長島に9月6日に着いたところまでの旅行記です。
最初に出てくる句は、温泉とは関係ありませんが、有名な
「月日は百代の過客にして、行かふ年も又旅人也」
です。温泉については、最初に栃木県の那須温泉が出てきます。そこの殺生石を見に行ったようで、”石から発する毒気がまだなくならないので、蜂や蝶が地面が見えないくらいに重なって死んでいる”、といっています。
福島県の飯坂温泉に泊まった記述もあります。飯坂温泉は現在では立派な温泉町ですが、当時は地元のささやかな温泉だったらしく、”温泉に入った後、宿をとったが、貧しい家で、燈火もなく、夜に雨が降ると雨漏りがあり、のみや蚊に刺されたりして眠れなかった。持病が出て苦痛で気を失うほどだった”、と散々な体験談になっています。
更に、宮城県の鳴子温泉の近くを通ったことが簡単に書かれています。
最後に、石川県の山中温泉が詳しく書かれています。”山中温泉に入浴した。その効能は有馬温泉の次といわれている。”、と述べ、そして次の句があります。
「山中や菊はたおらぬ湯の匂」
これは、”この山中温泉に入浴していれば、あの菊慈童のように菊を手折る必要はない。あたりは霊効のある湯の香りで一杯なのだから”、という意味です。菊慈童は、中国の故事に由来するもので、菊の霊水により長寿を保ったとされる侍童です。

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